戦後初の自由学校『きのくに子どもの村学園』
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卒業生たちの進路
中学校での英検合格率は、関西でトップクラスだそうですが、試験も宿題もなく強制的に何かを教え込むこともしない学びの場「きのくに子どもの村学園」を卒業した後の学力についての不安は、周囲の人々だけでなく生徒自身の口からも出るそうです。
ところがこの件について調査した結果によると、まったく心配ないそうです。
以前、外部の高校に進学した生徒たちの試験結果を各高校に依頼し、集計したことがあるそうです。その結果、興味深い事実が判明しました。
高校入学直後、学園卒業生のテスト結果は真ん中以下の人もいました。生まれて初めて体験する試験というものに、戸惑った人も多かったようです。ところが学年末になると、卒業生たちの大半がトップクラスの成績を修めるようになっていました。中には、クラスで一番の成績を取る生徒も何人かいました。
その理由を、ある卒業生はこう答えました。
「他校から来た生徒たちは、勉強することに疲れていたり、勉強嫌いになっているみたいなんです。でも、自分たちは試験勉強も試験自体も初体験なので、ゲームをやる感覚で楽しめました。自由教育って聞くと、みんなうらやましがりますけど、実は本人は大変なんです。まず、自分で問題をつくりださなければなりません。それから、それに答えを出すんです。でも、高校に入った途端、問題はすべて先生が用意してくれました。正直、こんなに楽をしてよいのだろうかと思ったくらいです」
瀬川正仁著『教育の豊かさ 学校のチカラ』より引用
「きのくに子どもの村学園」の卒業生の中には、研究者や商社マンなど既存の体制の中で活躍している人、NGOを立ち上げた人、スポーツ選手や芸能活動で活躍している人、さらに農業従事者や豆腐作りをしている職人など、様々な人がいるそうです。
幼いときから自分の興味をより深めながら、楽しく学ぶ姿勢が自然に身についていくことで、たとえば『工務店』と『ファーム』を学び卒業後、地元の高校で造園科に進み、東京農業大学に入学するなど、小・中での活動が進路に結びつく子どもも多くいます。
「きのくに子どもの村学園」を取材した瀬川氏はご著書で以下のように述べています。
自由教育の中で育った彼らは、人が敷いたレールに安易に乗ろうとせず、困難があっても、自分の正しいと信じたことを粘り強くやり遂げようとしていた。彼らがそうした生き方をできる背景には、子ども時代に多くの愛情に支えられ、『今』という時間を充実して生きたことがあるのだと思う。そして、どんな些細なことからも逃げず、自分の責任において立ち向かうよう教えられてきたからだと思う。自由教育が生み出す『自由な心』と『責任感』。そこには、いまの教育界が基準とする『学力』では測ることのできない、大きな『チカラ』があると感じた。それはもしかしたら、いまの日本に一番欠けているものなのかもしれない。
この、創意工夫をしながら自分の勉強したことが身についていく、自分自身の成長が実感できる学校「きのくに子どもの村学園」は大きな広がりとなっています。最初は小学校だけだったのが中学校や高専ができ、福井や山梨、北九州にもできました。マスコミにも何度も取り上げられています。
私は今回、「きのくに子どもの村学園」に関する本を数冊読みましたが、そこからは、学園の先生方の「今の教育をよくしたい」という想いや、子どもの力を信じて、自主性を育んでいる様子が伝わってきました。
現在のビジネス界で活躍されている方からは、今までの日本の学校教育では言われたことをきちんとこなすことや、答えを暗記する勉強が重要視されてきたように思われるが、それでは、社会に出てから活躍できる人材が育成できない、といった声もよく聞きます。
「きのくに子どもの村学園」の取り組みは、これからの社会に求められる人を育てることができる新しい取り組みで、これからの日本の学校教育に大きな変化をもたらすものになっていきそうです。
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