元JW2世の手記『解毒』を読んで

2016年1月23日に角川書店より、元エホバの証人2世の女性、坂根真実さんの手記『解毒』が出版されました。

坂根さんのお母様とお姉様が今も現役の信者さんでいらっしゃる状況の中、実名・顔出しで本を出版されるというのは大変な勇気が必要だったことと思います。

こちらの本で、物心つく前に親の意向でエホバの証人に入信させられた「二世信者」の苦悩や、ご自身の壮絶な体験も隠すことなく書き綴ってくださったこと、DV、2度の離婚、家族との断絶といったどん底の体験をして、アイデンティティを確立していく過程を記してくださったことに感謝申し上げたいと思います。

私は、生まれた時からエホバの証人のコミュニティにいたこと、洗脳されてしまった親からの虐待を受けても、親の愛を求め続けていたこと、エホバの証人を辞めたいと思いながらも、母を悲しませたくないという想いも持ち続けていて辞めることができなかったこと、自殺しようとしたこと…。『解毒』を読んで、坂根さんとの多くの共通点を見い出しました。

1985年6月6日に起きた「大ちゃん事件」(詳しくはこちらをご覧ください http://www.jwstudy.com/ja/blood_suzuki_dai/)をきっかけに、日本でもものみの塔の教理と洗脳の恐ろしさが広く知れ渡ることとなりました。それでも今でも入信し、精神を病んでいき、家庭崩壊、自死にまで至る事例は数多くあります。

何度もハルマゲドンの予言を外し、それに対する謝罪もせず、責任も取らずに悪びれることもなく予言を繰り返し、「間もなく世界の70億人の人類は、ほとんどの人がハルマゲドンで滅ぼされ、たった数百万人のエホバの証人だけが世の終わりを生き残る」などということを説く組織を信じ切る人たち。組織の闇に気が付いても組織を抜け出さない人たち。
周りの人たちからしたら、このような人たちが数多くいるというのは不思議なことに思えるかもしれませんが、組織による巧妙な策略によってそれが成功してきたことが分かります。

また、エホバの証人の子どもたちは親と組織に絶対服従の生活を強いられているのですが、その理由を私は今まで友人たちにうまく説明することができませんでした。しかしこの本の帯に記された、次の的確な表現を見たとき、はっとしました。

ハルマゲドンの教義は、大人たちにとっては入信を急ぐきっかけとなり、子どもたちにとっては、神への恐怖を植え付けられる洗脳となる。エホバの証人の信者になった親は、エホバから子育てを委ねられた立場となるので、子どもたちが親に逆らうことは、エホバという神に逆らうことになる。
子どもたちは、ハルマゲドンで神から殺戮されることを恐れ、親や組織の命令に服従するようになる。

そのような状況だからこそ、子どもたちへの虐待を疑問視する信者もほとんどおらず、常軌を逸した身体的、心理的虐待が長年に渡って行われてきたのだと思います。

アメリカの大学では「エホバの証人とモルモン教はカルトである」と教えていることを今回『解毒』を読んで初めて知りましたが、日本でも、もっと早い教育段階でカルトの特徴を教えてくれる機会があれば、被害者も減らせるのではないかと感じました。
というのも、エホバの証人の組織のトップが、信者たちの洗脳が解けないよう、高等教育を悪であるとして受けさせないようにしているからです。

アメリカの本部や世界各国の支部には、高学歴のエリートを配置して中枢の仕事を任せていますが、大多数の親世代の信者には「子どもに高等教育を受けさせないように」と圧力をかけ、若い信者には「高校卒業後の進路として、大学進学を考えてはいけない。大学にはサタンの罠がたくさんある」と圧力をかけているのです。
そして多くの若い信者がそれに従って大学進学の道を選ばなかったり、信者である家族によって半強制的に進学の道を絶たれたりしています。
実際、私も子どもの頃、周りの信者たちから大学には進学させずに開拓者にさせようとする圧力を受けました。
私がいた地域では大学に進学しない選択をした人たちが褒め称えられていました。(ただ、この教理に対する認識も国内でも地域差がかなりあるようで、大学に進学しても信者たちから蔑視されない地域もあるようです。)

このような現状から、大学でカルトについて教えてくれても、すでにカルトの信者になってしまっている人たちにはそれを知るところまでたどり着きません。義務教育で例えカルトの特徴を教えることが難しくても、物事の本質を見極める力が付くような機会がもっと与えられたらと願います。

また、ものみの塔独自の自然の理に反した「性教育」の実態や、その「性教育」の結果、世界各地に多数のエホバの証人の性犯罪者を誕生させてしまっていることや、組織内では女性蔑視の教理が深く浸透しており組織構造や規則、信者たちの言動に反映されていること、そして、エホバの証人の裁判制度と忌避制度などが分かりやすく記述されていました。エホバの証人ではない方々にもこの教団がどのようなものなのか、ご理解いただけるかと思います。

この本は、エホバの証人が親族や知り合いにいらっしゃる方には、エホバの証人の思考を知ることができる良書であると思います。
また、壮絶な体験を経て、無償の愛に気付き、大きく羽ばたかれていかれる坂根さんの、淡い恋や青春の思い出なども盛り込まれた半生を綴ったノンフィクションとしても味わい深いものでした。「無償の愛」をテーマとしたこちらの本は、宗教の枠を超えた話として、多くの方の心に響くものであることと思います。

最後に、『解毒』で私が一番共感した言葉をご紹介させてください。

他人と過去は変えられない。変えられるのは自分だけだ。親や社会を憎んでも、自分の人格が歪むだけである。私はこれからも現実と向き合って自分を変えていく。そして、人生を存分に味わっていきたい。

コメント

“元JW2世の手記『解毒』を読んで” への6件のフィードバック

  1. Akibareのアバター
    Akibare

    真彩さん、

    解毒の本のご紹介、有難うございました。
    角川書店なので、いずれ映画やドラマになり多くの人が知ることになると思いました。
    兄の解毒にも励みになります。カルトは最初から嘘を信じこませ人をむしろ本当の神の愛から遠ざけ、
    滅ぼすのが目的だと思います。多くの人、特に子供たちが救われるよう祈ります。
    素晴らしいブログを有難うございます。

    1. Maayaのアバター

      Akibareさん
      こんにちは。いつも心温まる素敵な記事をありがとうございます。
      また、当ホームページにもご訪問いただきましてありがとうございます。
      Akibareさんのお兄様もお辛いご経験をされてきたんですね…。
      私も、『解毒』が映画やドラマとなり、多くの方々の希望となることを願っております。
      温かいコメントをありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

  2. I.K.のアバター
    I.K.

    お久しぶりです。お変わりありませんか?

    エホバの証人の訪問を受けて興味を持った方や、組織に疑問を抱き始めている方に特に読んでいただきたいですね。二世の方は、表向きはみな幸せそうに演技していますが、実際は多くの子がこんな虐待レベルの鞭をされていた事実を様々な方に知っていただけたらいいな、と思います。それに対して知らぬ存ぜぬの態度をとり続ける組織は本当に正しい、真の組織なのかな…?自分には絶対にそうは思えません。

    1. Maayaのアバター

      I.K.さん

      こんにちは。
      いつもコメントをありがとうございます。おかげさまで元気にしています。

      本当にそうですね。信者の子どもたちにどのようなことが行われてきたのかが広く知れ渡り、負の連鎖が止まるよう願っています。

      1.   Ωのアバター
          Ω

        この世界が一体何なのか、人間とは何か、神とは何か
        その疑問に答えてから、JW を議論してほしいです。
        いろいろな考え方は、あります。
        しかし、そこで正しいのは、聖書の原則です。
        受け取り方は、人によって違ったり、極端であったり
        しますが、最善の結果と意見の一致の元で原則を当てはめる必要があります。
        私は、JW ですが、自分がカルトだと思った事も組織
        が、人間の思考に導かれたカルト集団だとも一度も
        思った事はなく、まして洗脳せれていると、思った
        事もありません
        もし、この世界に真実な事がなければ人間は、一生
        惨めな生き物で終わるだけです。
        私の知性は、物理的にJW が完全に創造者によって、
        導かれている証拠を見いだしています。
        これは、洗脳でわないのです。
        現実です。

  3. Maayaのアバター

    私からのコメントは控えさせていただきますが、現役信者様からもコメントをいただきました。

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